◎【萩生田富司議長】第40番、井上睦子議員。                            
  議員提出議案第12号、食品安全基本条例(仮称)制定に関する意見書について、ネット・社民を代表して、賛成の立場から討論を行います。

 かつては安全で当たり前だった食べ物の安全性が崩壊しています。残留農薬、BSE、遺伝子組み換え作物の拡大、輸入農産物、食品の安全性への懸念など、スーパーの売り場やレストランで、この食べ物は安全なのだろうかと不安がよぎります。日本は、これまで水俣病、森永砒素ミルク事件、カネミ油症、O-157集団食中毒、そして、雪印加工乳の食中毒など、数多くの食品事故を経験してまいりました。最近でも牛肉偽装や食品表示の不正、無登録農薬や違法添加物の使用など、生産者や食品メーカーの倫理が問われる事件が相次いでいます。

 2001年9月に起こったBSE問題に端を発し、政府はようやく食品の安全行政を建て直すべく、食品安全委員会の設置と食品安全基本法の制定を行うに至りました。東京都は、8月15日、食品安全基本条例制定に向けた基本的な考え方を発表し、パブリックコメントを募集し、今後は、この基本的な考え方をもとに知事の附属機関である東京都食品衛生調査会に諮問して、さらなる検討を行い、早期に制定するとしています。

 条例の基本的な考え方に示された制定の趣旨では、法と条例の基本的関係を踏まえつつ、法の規定だけでは対処が難しい課題などについても、大消費地東京の実情や都民の要望に応じた独自の対策を講じる必要があるとしているように、食品安全基本法の不十分性を補い、都民の健康と生命を守る実効性ある内容が食品安全基本条例に求められています。

 ことし5月、制定された食品安全基本法は、国民の健康保護がうたわれ、消費者を保護の対象としてしか規定していません。消費者が強く望んだ、消費者の安全や健康を求める権利は規定されませんでした。消費者の権利とは、安全な食品の供給を受ける権利、食品を選択する権利、食品安全行政に参加する権利であります。残留農薬基準の設定や食品添加物の指定などについて、食品の安全性を脅かすような行政決定は、消費者の安全な食品の供給を受ける権利を侵害するものであると位置づけることができます。すなわち、国や自治体の行政決定によって、消費者が事業主に対して持っている安全な食品の供給を受ける権利を侵害してはならないという意味です。国や自治体は、こうした消費者の権利を擁護する義務を負っていると、法律においても条例においても、明確にすべきであります。

 東京都条例の基本的な考え方には、都民の役割として、食品の安全確保に関する積極的な意見の表明、知識の習得及び合理的な行動の選択、都の施策への協力など、都民の主体的な行動が挙げられています。しかし、その前提には、食の安全確保が消費者、都民の権利として確立することが必要であります。東京都の食品安全行政のガイドラインである東京都における食品安全確保対策に係る基本方針の前文には、健康な食生活の基礎的条件は食品が安全であることであり、このことは都民の生命及び健康を侵されない権利を確立するものであると明記されています。都の基本方針にうたわれている都民の生命と健康を侵されない権利を、都条例にも文言として表現すべきであります。  さきの反対討論者は、既に消費生活条例により権利が確立されているので、食品安全基本条例には規定する必要はないというふうに意見を述べられました。しかし、消費生活条例に権利が確立されているならば、何ら食品安全条例に権利を明記しても矛盾することはなく、さらに都民の権利を食品安全基本条例においてもきちんと確立するという意味において否定されるべきではないというふうに思いますし、考え方としては同一なのではないかというふうに思います。

 遺伝子組み換え作物が食卓に出回る割合は、大豆や菜種では50%以上になっています。大豆で見れば、豆腐や納豆などの表示義務のある食品に関しては、非遺伝子組み換え大豆が用いられ、表示義務のない食品には遺伝子組み換え作物が回されています。遺伝子組み換え作物への不安があるにもかかわらず、このように消費者の選択できる範囲は限られています。

 7月26日、茨城県谷和原村で実験栽培されていた遺伝子組み換え大豆が刈り取られ、埋められるという事件が発生いたしました。花粉の飛散によって、他の作物と交配することで遺伝子組み換えの作物の遺伝子が拡散し、生態系に深刻な影響を及ぼすことに抗議する事件でした。

 遺伝子組み換え作物については、消費者にも生産者にも、安全性や生態系への影響などに対して大きな不安があります。都条例の基本的な考え方及び東京都の基本方針においては、遺伝子組み換えに対する記述はありません。都民の不安が大きい遺伝子組み換え作物については、環境への配慮、消費者の選択の権利の保障、検査体制の強化、国への提言など、きちんと条例に盛り込んでいく必要があります。

 有害物質によって健康被害を防止するために、環境基準や食品安全基準などの基準値が定められていますが、それらは大人をベースにしたものがほとんどです。成長期にある子どもは、大人と比べて、化学物質の影響を受けやすく、体重当たりの食物の摂取量は、子どもの方が大人よりはるかに多いと言われています。化学物質の曝露量は、体重当たりの量に換算すると、子どもの方が多いことが明らかになっています。こうした子どもの特性を考えると、子どもの健康を守るためには、大人をベースにした安全基準では不十分であり、東京都では子ども基準の設定をすることが必要であります。

 数値評価はしないし、子ども基準の設定はデータの決定や、あるいは莫大な費用がかかるとのことで、反対の意を反対討論者は示されましたけれども、とりわけ子どもの命と健康にかかわる問題について、科学的なさまざまなデータの処理の問題や財政的な問題を理由に、この問題を軽視してはいけないというふうに思います。子ども基準の設定をしっかりすることが必要であります。

 すべての人々が安心して健康に暮らすためには、食の構造を改革することが必要でありますが、科学的な因果関係が不確実であっても、積極的な対策を行うなど、疑わしいものは使わないという予防原則を打ち立てることが大事です。このことは、過去の食品事故、事件から教訓として得られることです。食品の安全問題は、直ちに被害が発生しない、大変見にくい、原因も特定しにくい被害です。そして、被害が発生し、原因が特定されたときには、もはや取り返しがつかなくなっています。食品安全情報評価委員会では、法による規格基準などにより、規制されていない食品のリスク情報を中心に整理、集約するものとしています。委員会の調査勧告について、予防原則を確立することは可能であります。シロに限りなく近いグレーの部分については、風評被害などが発生するということでありましたけれども、万が一それが人命にかかわる大きな被害に発生したときに、このことを規定されなければ、行政や議会、政治の怠慢は厳しく糾弾されることになるということを指摘しておきたいというふうに思います。

 ことし8月、健康局では、食の安全・安心確保に向けた新たな仕組みの1つとして、食品衛生自主管理認証制度を創設いたしました。この認証制度は、衛生という観点からではありますが、食品の流通生産の過程を明らかにしていくことになります。トレーサビリティーとは、食品がいつどこでどのように生産、流通されてきたかなどについて、消費者がいつでも把握できる仕組みです。この仕組みは安全な食品の製造と流通を確保することにつながっていきます。この認証制度を進めることにより、トレーサビリティーを確立することができます。このことを条例に明記すべきであります。

 1989年、東京都民のうち有権者55万人の署名を集めた東京都食品安全条例の制定を求める直接請求運動は、東京弁護士会と市民運動によって担われました。この条例の目的は、食生活における消費者の権利と人間個々の健康権の確立の保障でありました。しかし、東京都議会は、食品安全基本条例を否決いたしました。そのつけが、今日の食への不安の増大、そして、食品事故や事件を生じているのです。都民の生命、健康を守るためには、意見書に盛り込まれた5項目を入れ、最善の条例を制定すべきであります。

 以上で賛成の討論を終わります。