◎【萩生田富司議長】 質疑なしと認め、進行します。
これより討論に入ります。
第78号議案について討論の通告がありますので、許可します。
この場合、討論時間は15分以内としますから、あらかじめ御了承願います。
第40番、井上睦子議員。
〔40番議員登壇〕
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第78号議案、八王子市個人情報保護条例設定について、ネット・社民を代表して、反対討論を行います。
行政は、市民の私生活に関するさまざまな情報を日常的に取り扱っています。税務分野では個人の収入、資産状況を、福祉、医療分野では個人の健康状況を、教育分野では個人の成績や評価など、さまざまな個人情報を扱っています。また、図書館の貸し出し履歴を通して個人の思想、信条や、選挙事務に関連して個人の前科がわかってしまうようなこともあります。このように、行政は市民の私生活に関するさまざまな情報を取り扱う以上、取り扱う市民の個人情報の保護に万全を尽くすことは当然であります。
さらに、住民票の大量閲覧、成り済まし転出、また、児童、生徒の非行問題、そして、その行動を学校と警察との相互連携など、本人が全く知らないところで個人情報がやりとりをされています。本人の知らないところで個人情報を勝手に取り扱うことには問題があります。取り扱われる個人情報が不正確になりやすく、人物評価などは評価者の主観によって左右されることも多く、本人は不当な評価や取り扱いを受けるかもしれません。また、正確な個人情報でも、本人の了解を得ないで提供される、例えば住民票の大量閲覧によって、不正請求の事件や悪徳業者の訪問販売など、望まない事件に巻き込まれる危険性もあります。
本人の知らないところで個人情報を取り扱うことを問題とし、本人に事実を知らせ、本人の意思を尊重すること、すなわち自己情報コントロール権を保障することが行政の重要な責務になっています。自己情報コントロール権の保障とは、個人情報を扱う自治体の仕事の中でインフォームドコンセントを確立していくこととも言えます。
1996年に制定された八王子市の現在の個人情報保護条例は、プライバシーの概念を、他人に知られたくないこと、そっとしておいてほしいことということから、自己に関する情報をコントロールする権利へと発展させた条例です。条例の基本構造は、1点目として、現条例の中でも示されていますが、実施機関としての義務として、個人情報の収集の制限、利用、提供の制限、適正な維持管理に対する取り決め、あるいは取り扱い状況の公開となっています。これは、条例改正案では、第2章、第3章、第4章であらわされているものです。
2点目として、第5章で示されているように、自己の個人情報に関する権利として、個人情報の開示、正しい個人情報でなかった場合は訂正すること、条例に反して収集された個人情報であれば、削除すること、目的外利用または外部提供された場合は、利用の中止を求めることを第5章で市民の権利として確定しています。
3点目には、第6章ほかで示されてあることですが、この条例の実効性を担保するために、審議会や審査会の設置と役割を規定し、罰則規定を定めています。
今回、全面改正となる条例案は、こうした3点の現行条例の基本構造をとっており、条例構成自体に大きな変化はありません。新たに指定管理者の責務を定め、実効性を確保するために実施機関の職員や受託者、指定管理者などの罰則規定を設けたことは評価できる点でもあります。しかし、以下の点で、幾つかの問題があります。
第1点は、目的に自己情報コントロール権が明記されなかったことです。自己情報のコントロール権とは、さきに述べたように、行政や社会が保有している自己情報への本人のアクセスとコントロールの権利を定めたものであります。第1条の目的では、開示、訂正、削除、利用などの中止を請求する権利として保障することにより、個人の権利利益を保護し、もって基本的人権の擁護を目的とするとあるように、自己情報コントール権を具体的に保障しており、この条例は否定はしていません。
現代社会において、個人情報が行政機関によって集中的に管理されている状況の中で、プライバシーの保護を公権力に対して積極的に求めていく側面を重視するという意味で、自己情報コントロール権の概念が提唱されるようになってまいりました。長野県の個人情報保護条例改正のための審議会の答申でも、個人情報保護制度について、保護される個人の権利利益は、日本国憲法の定める基本的人権としての人格権、憲法13条に由来するものであると明記されているように、憲法上の位置づけも明確化されてまいりました。
自己情報コントロール権は、総務企画委員会の審査の中でも、今後より発展し、明確にされ、そして、尊重されなければならない権利であるという答弁がありました。これは、自己情報コントロール権を否定していません。基本的人権の擁護としてとらえるならば、自己情報コントロール権を条例上明記すべきだと考えています。
第2点目の問題は、行政機関個人情報保護法に規定されている個人情報、すなわちそこから除外される、具体的には刑事事件に関する犯罪の捜査情報などは、市民の権利としてある開示、訂正、削除、利用中止や救済措置などの権利保障が除外されていることです。これは行政機関法の問題でありますけれども、子どもの刑事事件などで何を調べたのか、自治体がどのような情報を提供したのか、そして、この情報は社会的差別につながる情報の危険性はないのか、本人の権利や利益が侵害される危険性がないのか、そういったことを提供された本人の側は知るよしがありません。こうした意味で、個人の情報に対するアクセス権を除外したことは問題だと考えられます。
第3点目は、オンライン結合による原則禁止の問題であります。改正条例でもオンライン結合は原則禁止となっておりますけれども、法令に定めがあるときは、現条例では、審議会の意見を聴いて、必要かつ適切と認めたときはオンライン結合ができるとしたものを、今度の改正条例では、法令に定めがあるときは例外とし、審議会の意見を聴かなくてもオンライン結合ができるとした点が大きな問題です。オンライン結合は、大量の個人情報を瞬時に処理し、提供するものです。個人情報の提供、利用の形態としては、個人情報の漏洩、不正利用など、個人の権利を侵害するリスクが高くなります。電子自治体の進展の中で、個人情報をオンライン結合することによって共有する場面は、従前に比べて、よりますますふえていくことが予想されます。したがって、オンライン結合に対する慎重な判断はますます要請されることになります。
法令に定めがあるオンライン結合で大きな問題となったのは、住基ネットの問題でありました。現行条例では、審議会の意見を聴くことになっているため、本市では、審議会が住基ネットへのオンライン結合を認めて、住基ネットは稼働しています。住基ネットは、市民が利便性を実感できないこと、セキュリティー面での不安や、11けたの共通番号が国民総背番号制の基盤になり、データマッチングなどによって監視社会への道を開くなどなど、多くの問題が市民や自治体の側からも提起されてまいりました。この提起は、オンライン結合の持つ危険性を明らかにしています。
住基ネットをきっかけにオンライン結合禁止の見直しが国を主導に始まり、法令に基づくものをフリーパスで認める動きが加速しております。本市の条例も、その流れにあります。しかし、オンライン結合による個人情報の外部提供が原則禁止とされている趣旨を考えると、審議会が事前に事務事業の概要を知り、そして、そのことに対して意見を述べる機会を確保しておくことは、個人情報の保護として極めて重要であると言えます。国の法令に対しても審議会の関与は認めるべきであり、地方分権の時代、市民の個人情報を保護するためにその内容を検証することは、自治体の権利であり、責務であるとも言えます。オンライン結合の危うさや負の側面に気づき、必要であれば、修正を加え、安全性を確保するためにも、第三者の視点、すなわち審議会の関与は必要不可欠なものであります。
こうした意味で、オンライン結合を原則禁止としつつも、法令にあるものを例外としたのは大変大きな問題だと言わざるを得ません。
4点目の問題は、開示請求に対して不開示理由が詳細に規定され、不開示理由が拡大されたこと、そして、存否応答拒否が導入され、市民の個人情報へのアクセスが縮小されたことです。現在、学校と警察が連携を強化して、子どもの健全育成を効果的に推進するという目的で、非行や問題行動のある子どもたちの情報の提供が相互に行われようとしています。これは、生徒または保護者が、自分の情報が警察にどのような内容で提供されたのか開示請求しても、教育的指導の支障になるという理由で、開示されない情報となるというのが総務企画委員会での市の見解でした。開示請求しても、現条例では、提供した文書があれば非公開、なければ不存在となりました。しかし、存否応答拒否によって、警察に情報を提供したか否か、これは明らかにならないことになります。その文書が存在していても、存在しなくても、存否応答拒否とする危険性があります。これは市民の立場からすれば、個人情報の存在すらも知ることができないという事態になり、現行条例からは後退となってまいります。
以上のように、今回上程された全面改正案は、目的は現行条例を継承しつつも、オンライン結合原則禁止に関する法令に定めがある場合の例外規定や自己情報コントロール権が適用除外される情報が新たに盛り込まれたこと、さらに存否応答拒否などによって市民のアクセス権が縮小されたということが、個人情報保護施策の前進ではなく、後退であるということを申し上げ、反対討論を終わります。
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