◎【萩生田富司議長】
第40番、井上睦子議員。  

〔40番議員登壇〕  
 第106号議案、八王子市行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例設定について、生活者ネットワーク・社会民主党を代表して反対討論を行います。

 電子政府、電子自治体の目指すものは、行政情報の電子的な提供、行政手続のオンライン化、手数料のインターネットでの納付や電子入札などを具体的に進めることです。2002年度からは住基ネットが稼働し、国は自治体が持っている住民の4情報を、政府にかかわる264事務において利用しています。高度情報通信技術の発達は、確かに行政内部や事業者にとって便利になる面もありますけれども、他方、住基ネットの問題でも明らかになったように、個人情報の保護とセキュリティの問題、すなわちプライバシー権の問題が大きく提起をされております。

 提案されている行政手続の電子申請等の運営は、東京都内55の自治体で構成される東京電子自治体共同運営センターが行います。この共同運営サービスで現在想定されているサービスは、電子申請と電子調達、電子決済のサービスなどであります。共同運営のための委託料の総額は約21億円で、八王子市の委託料は、2009年度まで毎年約1,000万円もかかります。

 年間1万件の申請件数を見込んでいるとのことですが、納税証明や住民票の交付申請については、電子証明書である住基カードが必要です。その住基カードの発行は、現在、人口の0.4%にすぎないこと。また、これを利用できるパソコンのソフトやカードリーダーなどのハードが必要となってまいります。どれほどの市民が利用するのか、また、利便性はあるのかなど、費用対効果の点からも疑問が生じます。



 共同運営センターはNTTコミュニケーションズを代表企業とする次世代電子自治体推進企業体によって運営されますが、自治体からの職員は派遣されず、重大な事故が起きたときなどの緊急事態の場合にも、すべて委託企業が対応することになります。これは共同運営センターの運営や、技術面で企業体が実質的な力を持つということを示しています。市民の個人情報を企業に全面的にゆだね、そこに自治体の技術的なレベルをも含めた監視が及ばないということは、とても危険だと言えます。

 参加自治体で構成する共同運営協議会は、契約の主体ではなく、委託契約は市区町村の単位ごととなっています。そのため、サービス提供の責任は参加自治体に分散されますけれども、実質的には東京都が協議会の主導権を持って運営しているという実態があります。したがって、協議会は自立した団体として責任主体にはなれず、共同運営サービスに関する責任がどこにあるのかということもあいまいであります。結果として、特にセキュリティの確保とプライバシーの保障について、十分な保障がされていない、確保がされていない危険性があります。

 八王子市と企業体との契約書が情報提供されました。しかし、非公開となった部分が多く、その概略的なものであったために、セキュリティとプライバシーの保障に関する件については、契約書上からも私自身は確認できませんでした。

 また、共同運営センター、そして自治体が参加している行政ネットワークのLGWANを通じて、電子申請、電子調達のサービスが行われますけれども、共同運営センター及びLGWANのセキュリティの強度についても、運用以前に外部監査をしておりません。住民から、また事業者からの申請というさまざまな情報が、このLGWANに流れてくるわけですけれども、これは住基ネット以上に脅威にさらされることになるこのシステムに対して、対策は不十分であると言えます。

 東京電子自治体共同運営サービスの目的の1つとして、自治体に共通の業務の標準化、共同化による行政効率の向上、そして行政コストの削減が挙げられています。申請書類の様式を統一することなどは、確かに効率的です。入札などでは市内企業の優先など、条件をつけることは例外処理としてコストがかかるといわれています。全国どこからでも入札できる制度に移行していくという方向が、この共同運営のシステムの中からは読み取れます。これは行政コストの削減の声のもと、そして規制緩和という流れと相まって、自治体の特色ある、あるいは個性ある施策などを否定していくということにつながるのではないでしょうか。

 総務省の電子自治体のシステム構築のあり方に関する検討会は、ベンチャー企業関係者や自治体のシステム部門担当者を中心とする構成で始まりました。この検討会は自治体の電子申請システムの開発が終了したことを受けて、次のステップとして自治体の基幹業務、すなわちバックオフィス、具体的には財務会計や人事給与、庶務事務という自治体の基幹業務の共同アウトソーシングを課題としています。そしてまた、自治事務に関するあらゆる種類の情報の標準化、国の機関のシステムとのネットワーク上での連携を目指すとしています。言いかえれば、これは自治体の自立性にかかわっているシステムの基本構造の検討が始まっているわけです。

 この共同運営サービスの最終目的は、バックオフィス、自治体の基幹業務のアウトソーシング、すなわち、財務会計や人事給与という、自治体の中心的な事務を民間委託するという流れだとすれば、これは自治体の事務が本当に縮小し、職員は大幅に減少するという流れが起こってきます。しかし、企業にすべてを委任し、そして大量な個人情報を企業に握らせることは、かなり危険であります。

 委員会では、こうした流れは、そこまで起こらないであろう、東京都のレベルではそこまで考えていないという答弁がありましたが、将来については否定されませんでした。このシステムがこうした基幹事務のアウトソーシングまで視野に入れており、総務省の主導で進んでいることは、地方分権の流れに逆行するものだということを指摘して、反対討論を終わります。