◎【萩生田富司議長】
第40番、井上睦子議員。  

〔40番議員登壇〕  
 議員提出議案第18号、自衛隊のイラク撤退を求める意見書について提案説明を行います。

 アメリカのイラク戦争は歴史的な誤りでした。国連憲章は第1条で、国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すると定めております。国連憲章で認められる武力行使は、あらゆる軍事的な措置が不十分と安保理が認めたとき、2つ目には、国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合に限定されております。

 しかし、アナン国連事務総長が、決議なく軍事行動を行うことは国連憲章違反だと表明したように、アメリカのイラク攻撃がそのいずれでもなかったことは自明であります。アメリカは国際社会の約束を一方的に踏みにじってイラクを攻撃したのです。

 アメリカの先制攻撃を正当化する理由として挙げられていたイラクの大量破壊兵器の保有については、アメリカ政府の調査団の最終報告書でも、アメリカがイラクを攻撃したとき、イラクに大量破壊兵器が存在せず、また、アメリカに対する差し迫った脅威がなかったことが明らかになっています。ブッシュ大統領もブレア首相も、みずからの情報の不完全さを認めざるを得ず、イラク攻撃を正当化できる根拠は完全に崩れ去ったのであります。

 イラク戦争は大義のない不正義の戦争でした。米英の空爆は住宅街や市場など、一般住民への生活の拠点に向けられたものも多く、使用された兵器も強力な殺傷能力を備えたバンカーバスターなどが多用されています。しかも、劣化ウラン弾が湾岸戦争時の6倍から8倍も使われたといわれています。NGOの組織であるイラクボディーカウントによれば、米英軍の軍事介入で殺害された一般住民は約1万人にも及び、負傷した人や住宅を失った人、仕事を失った人を含めたイラク市民の犠牲者は10万人を超えるとされています。これは湾岸戦争時の約3,000人という数字を大きく上回っています。

 大量のイラク市民を殺りくし、負傷させた米英のイラク攻撃は、その標的の設定においても、あるいは使用された武器などの手段においても、国際人道法の違反の疑いを濃厚にはらんでいると言わざるを得ません。アメリカ、イギリスのイラク攻撃は、そもそも入り口の段階で、国際法上、正当化されず、また個々の戦争行為にも、あるいは捕虜の扱いにも、国際法の違反であるもの、そしてそれの疑われるものが数多く含まれています。こうしたことを放置し、小泉首相と日本政府は無批判にアメリカのイラク戦争を支持しました。占領のコストを肩がわりし、あるいは占領のための活動を下支えするために、自衛隊を派遣しています。この日本政府の行動は、不正義な戦争への加担以外、何物でもありません。

 昨年7月成立したイラク復興支援特措法は、国連安保理決議1483を根拠としています。この決議は、加盟国に復興支援への協力を呼びかけているものの、決して軍事力による貢献を求めたものではありません。にもかかわらず、受け入れ国の同意を欠き、米英両軍の占領統治下にあるイラクへ自衛隊を派遣したことは、後方支援であっても、憲法9条が禁じる交戦権の一部の行使にほかなりません。

 さらに、米英軍の兵士を輸送することは、武力行使との一体化であり、集団的自衛権の行使であり、憲法違反の行動であります。自衛隊のイラク派兵について、小泉首相は、国際協調と人道復興支援を強調しています。しかし、イラク特措法が議論された昨年、バグダッドの一教師からはこのようなメールが全世界に打たれました。その一部を紹介します。

 私はサダム・フセインを支援したことはありません。しかし、米国は武装強盗です。彼らは毎日、イラク人を殺しています。そして普通の市民はだれも彼らを支持していません。今、ますます多くの人々が抵抗運動に参加しています。彼らは旧体制の残党でもテロリストでもなく、普通の人たちです。もし、仮にどこかの国が日本を侵略したら、人々がどのように行動するか、想像してください。イラクを再建するのは、イラク人であるべきです。決して侵略者ではありません。米国の連合軍として日本はイラクに来ないでください。侵略者が去ったあとなら、私たちは日本を歓迎します。しかし、断じて今ではないのです、というメールが全世界を駆けめぐりました。

 また、日本人の人質事件にあらわれたように、武装組織は日本政府に自衛隊の撤退を要求し、その反発の声は宗教指導者や一般国民からも挙がっています。最近では、自衛隊がサマワに設置した日本とイラクの友好記念碑が爆破されるという事件まで起こってきています。

 このように、自衛隊の派遣を要請し、そしてその派遣の継続を要請しているのはアメリカだけであり、決してイラクの人々ではありません。自衛隊の派遣が決してイラクの復興に直接つながるものではなかったことも、この1年間の経験が明らかにしています。

 自衛隊が行った活動は、給水や施設補修、医療支援などですが、浄水化した水の50%は自衛隊が使用しています。派遣にかかった予算は、8月末までで323億円、その9割以上の297億円はサマワにいる陸上自衛隊の経費となっています。巨額の税を投入しても、大半が自衛隊の経費に使われ、イラク市民への支援はその費用の1割にも満たず、サマワ周辺の数万人の市民にしか行き届いていないのです。

 ブッシュ大統領が大規模戦闘終結宣言をしたのは2003年5月1日でした。しかし、1年半以上もたつ今日、イラクの情勢は安定するどころか、より混乱を極めています。ファルージャ掃討作戦に見られるように、イラク武装抵抗勢力とアメリカ占領軍の戦争が再燃をしています。イラクの抵抗組織とイラクの暫定政府との内戦状態が続いています。

 このように泥沼化している情勢に対し、アメリカは米兵の1万2,000人を増強して15万人規模にする。そして来年の選挙実施をどうにか取り繕おうとしています。既に撤退したスペインやフィリピンに続き、サマワ一帯の治安を守り、自衛隊を守ってきたオランダ軍は来年3月に撤退します。ポーランドは1月末の国民議会選挙後、大幅に削減されます。ハンガリーは年内に撤退します。チェコは2月、建設部隊が帰国し、ルーマニアは6月の撤兵と、各国の撤退が相次いで表明されています。国際社会は米英両軍主導の占領政策に強い疑問を投げかけています。

 しかし、日本政府は12月9日、自衛隊の1年間派遣延長を閣議決定しました。この決定の直前、防衛庁長官、自民党、公明党の幹事長はサマワを視察していますが、たったの5、6時間の視察で、延長のアリバイづくりにしか見えないとの批判を受けました。サマワの地元、ムサンナ州警察本部の本部長は、相次いで視察に訪れた防衛庁長官や自民党、公明党の幹事長から会談の申し入れがなかったことを明らかにし、治安情勢を知りたいなら治安の実務責任者から話を聞くべきではないかと言い、いかにもずさんな視察であったかということを明言しています。

 各種の世論調査では、国民の6割以上が撤退を求めているのに、派遣の延長決定に当たっては、国会の審議を回避し、最低限の説明責任すら小泉首相は放棄しました。サマワの陸上自衛隊の宿営地には、現在まで8回もの砲弾が繰り返され、もはや非戦闘地域ではなくなっています。イラク特措法に照らしても、サマワの状況は戦闘地域であり、自衛隊の撤退は当然であります。

 そして、原点に立ち返って考えるならば、アメリカが始めた戦争は大義のない戦争でした。日本政府はアメリカの要請に従って、戦争による荒廃を収拾するために自衛隊を派遣すると決定したのです。しかし、自衛隊の給水や施設補修という小さな親切は、大義のない戦争という大きな悪を帳消しにはできません。イラクの人々から見れば、多国籍軍に参加している自衛隊は米軍の従卒であり、日本はアメリカの属国であると見えます。自衛隊の本質は、誤った戦争に加担する軍隊です。したがって、自衛隊はイラクから即時撤退するべきなのであります。日本がアメリカと真の対等な友人であるならば、まず、みずからと友人の過ちを正さなければなりません。

 まず、第一に、イラク人の犠牲者に対して、アメリカとその協力、加担をした国々が謝罪をすべきです。その上で、国連を中心とした国際的な協力の枠組みでイラクの統治体制を再構築すること、復興支援をすることが求められています。日本はそうしたシナリオの実現に向けて自衛隊を撤退させるということを本意見書は求めるものであります。

 以上、自衛隊の皆さんには、殺される前に、またイラクの人々を殺す前に、家族のもとに早く帰ってくるよう呼びかけて、本意見書の提案説明を終わります。どうぞ各議員の御賛同をお願いいたします。