◎40番井上睦子議員
第138号議案、東京都後期高齢者医療広域連合の設立について、生活者ネットワーク・社会民主党を代表して、反対の立場から討論を行います。

 前小泉内閣の財政運営は、聖域なき歳出削減として、2002年から毎年2,200億円の介護や医療、障害者福祉などにかかわる社会保障費の削減が行われてきました。今回の医療制度改革──改悪でありますけれども、これもまず財政削減が自己目的化し、国民の医療保障という本来の目的を忘れ去ったものになっています。

 後期高齢者医療制度は、75歳以上の後期高齢者が全員加入する独立保険です。この財源構成は、国、都、市で負担する公費が5割、現役世代の支援金が4割、75歳以上の保険料が1割で構成されます。この負担割合は変わりませんので、介護保険の仕組みと同様に、医療費が増大すれば、保険料も高くなってきます。また、2年ごとに人口比で財源の負担割合を調整するため、少子・高齢化に伴い、高齢者の負担割合は今後ふえていくことになります。

 これは若い世代から切り離して高齢者の医療費を明らかにし、医療費と保険料を連動させることで、各市町村の医療費の抑制を目的としたものになっています。保険料は都道府県ごとに異なり、医療費の抑制ができなければ、保険料を高くせざるを得ない仕組みとなっています。後期高齢者の受診回数は一般の人たちに比べ、2.8倍にもなります。医療の必要度の高い層をひとくくりにする後期高齢者医療制度は、保険原理がきかず、保険制度としては成り立ちません。

 後期高齢者医療制度は、都道府県単位で全市町村が加入する広域連合が財政運営を担い、保険料は市町村が徴収することになります。厚生労働省の試算では、厚生年金を年間280万円受給している平均所得の場合、保険料は6,200円、基礎年金79万円の場合、月額900円、年収390万円の子どもと同居し、本人が基礎年金79万円の場合、3,100円の月額保険料としています。平均所得の場合、医療保険では6,200円、介護保険では全国平均4,000円という、毎月合計1万円の保険料に高齢者は耐えられるのでしょうか。加えて、受診した場合、1割の自己負担が発生します。受診抑制や医療にアクセスできない事態が生じかねません。後期高齢者医療制度の6割が女性です。女性の33%が年金月額3万円から4万円、高齢者世帯の約36%が女性のひとり暮らしです。こうした高齢者の低所得者対策の詳細についてはまだ明らかになっておりません。

 国民健康保険税の長期滞納を理由に、医療費の全額負担を求められる資格証明書を市町村から交付され、保険証を使えない無保険者が2004年度全国で30万世帯になりました。NHKでも報道されたように、病気になっても保険料を払えないために病院にかかれない状況が発生しています。医療証の発行は、滞納対策とされましたけれども、逆に、滞納世帯は上昇しています。広域連合での滞納者に対する対応や保険料の額については、これからの議論、検討事項として明確にされませんでした。年金天引きで新たな保険料負担を課し、滞納すれば保険証を取り上げるという仕組みになれば、医療を受ける権利を奪うことになります。後期高齢者医療制度では、後期高齢者の心身の特性などにふさわしい医療が提供できるよう新たな診療報酬体系がつくられます。これは、高齢者の医療の質の低下を招く危険性があります。また、所得によって受ける医療が異なってくるという医療格差につながっていくことになります。

 広域連合は、地方自治法上認められた正規の団体ですが、都道府県を単位とする大規模な広域連合はこれまで例がありません。厚生労働省は当初、市町村に運営や財政管理を担わせる、財政運営を担わせる方針でしたが、市町村は財政責任を負うことに反対し、都道府県からも拒否されて、広域連合で決着したという経過があります。財政問題など、だれがどのように責任をとるのか、不明確です。都道府県に設置をされる保険者協議会で、高齢者医療制度の運営や医療費の適正化に関する保険者間の連絡調整を行うことになりますが、保険者協議会の権限、広域連合との法的関係、支援金などの意見が食い違った場合の調整については不透明であり、不明確です。

 広域連合の議会組織は議員定数31名で、区の議会から17名、市の議会の議員から12名、そして、町及び村の議会の議員2名からの31名の構成となっています。当初、市長会、市議会議長会は62名を主張していましたが、調整の結果、効率的な運営との理由で31人となりました。すべての自治体からの議員の選出はできず、真に自治体議会や高齢者の意見を反映できる組織と構成にはなっていません。執行機関は市区町村の長4名と専任常勤1名の5名で組織されます。広域連合と市区町村間の調整を行う協議組織、これは区と市の首長から6名ずつ12名で構成されるということになりますけれども、被保険者が制度運営に意見を述べるという組織は設置されておりません。被保険者の声、すなわち高齢者の声は議会や協議会で反映できるという答弁が委員会でありましたが、すべての自治体から執行機関や協議会、広域連合議会に選出されているのではないために、被保険者の声が十分に反映するとは言えません。国保と同様の運営協議会を設けるべきです。

 広域高齢者医療制度は、以上のように、高齢者の医療の充実をするのではなく、国の公費負担削減のための医療費抑制と自己負担の増加を強いるというものです。その結果、高齢者の医療を受ける権利の制限などの問題が生じる危険性があります。

 以上の理由によって後期高齢者医療広域連合の設立に反対し、討論を終わります。