◎40番【井上睦子君】
 第54号議案、災害派遣手当支給に関する条例の一部を改正する条例設定について、生活者ネットワーク・社会民主党を代表して、反対の立場から討論を行います。

 この条例改正は、国民保護法に基づいて、市長の派遣要請により、国民の保護措置のために八王子市へ派遣された職員について、武力攻撃災害等派遣手当を支給するというものです。具体的には、テロ攻撃に対応した化学剤や、放射線の除染、汚染調査や健康診断、相談対応のための職員を放射線医療総合研究所や厚生労働省から、そして復旧段階では、建築・土木技術職として東京都から派遣されるということが答弁されています。

 それでは、そもそも根拠法である国民保護法は、有事法制の一環であります。この観点からこの条例改正案も考えなければならないと思います。有事とは、武力攻撃事態法では武力攻撃事態、そして武力攻撃予測事態、緊急対処事態と3種類に定義をされています。武力攻撃予測事態とは、武力攻撃がなくても、予測されるだけで有事と認定できるというもので、ここにこの法律の本質があらわれています。

 1999年に成立した周辺事態法でも、周辺事態とは、武力攻撃に至るおそれのある事態を含む定義とされ、武力攻撃がなくても、周辺地帯で紛争が発生して在日米軍が出動すれば、周辺事態になります。武力攻撃事態法と周辺事態法が密接につながって、米軍が先制攻撃を行い、相手側が攻撃の準備をすれば、その段階で日本にとっては武力攻撃予測事態となり、戦時体制がつくられていくことになります。この2つの法律は、外国からの攻撃に備えるための法律ではなく、先制攻撃のための備え、すなわち戦争準備法とも言えます。

 国民保護法では、武力攻撃事態を、着上陸侵攻の場合、ゲリラや特殊部隊による攻撃の場合、弾道ミサイル攻撃の場合、航空攻撃の場合を想定しています。しかし、防衛庁は、着上陸侵攻や航空攻撃の可能性は低下しているため、軍備は縮減する方向です。武力攻撃事態の可能性は極めて低いということになります。

 そうすると、国民保護法での実際の問題は、緊急対処事態、テロ対策になってきます。原子力発電所やダムの破壊、大規模な集客施設やターミナル駅などの爆破、放射能や化学剤の大量散布、自爆テロへの対応となります。しかし、これらの事態は基本的に警察や消防の任務です。事態が起これば、国から国民保護などと指示、命令されなくても、現場の警察や消防が直ちに出動し、市民の自発的協力を得て、避難、防災を行うという性質のものです。したがって、条例が想定しているテロ攻撃に対した専門的知識の職員派遣手当は、災害派遣手当で十分対応できると言えます。

 さて、国民保護計画は本当に市民を守るのでしょうか。鳥取県の保護計画では、自衛隊の活動と県民の避難活動が衝突した場合の調整ができず、実際には自衛隊優先にならざるを得ないことが明らかになりました。いざとなれば、幹線道路は自衛隊の出動に使用するもので、県民の避難経路には使用できないということが明らかになったのです。このことは、ことしの予算等審査特別委員会でも、侵害排除を任務とする自衛隊と米軍、そして市民の避難、保護というものが競合した場合について、私も当時の担当部長にただしましたが、細かい事案については答えられないという答弁を繰り返すのみで、市民の保護が優先されるという答弁はありませんでした。

 有事法制の推進派である森本敏さん、浜谷英博さんの著書の中、これはPHP新書の「早わかり国民保護法」という本の中に記されていることですが、「有事における公的機関の支援活動には限界がある。あくまで、住民の自己防衛に対する補完的活動にならざるを得ないことを自覚すべき」と、行政が責任を持てないことを明らかにしています。

 武力攻撃の予測段階で発動される有事法制の一環である国民保護計画の本当の目的は、自衛隊や米軍の軍事行動を円滑に行うためのものであり、戦争協力が目的だと言えます。国民保護計画が発動されれば、住民は行政の指導に従うことを強制されます。例えば、鉄道による避難が指示されているので、自動車で避難をしようとすれば、自衛隊の活動に妨害になるため、排除をされることになります。このように、やはり自衛隊や米軍の活動が第一であって、住民の保護が第二となるということになります。

 このように、国民保護計画は、住民を守らないばかりか、計画づくりや避難訓練などを通じて、戦争が日常生活に入り込んでくる要素をも持っています。国民保護計画の出前講座が4月にありましたけれども、そこに参加した市内に居住する中国の人は、災害時の中国語のボランティアとして行政とも協力していきたいと思っているが、中国脅威論などが言われ、戦争のときは大混乱する中で、自分自身が守られるのではなく、敵の扱いを受けるのではないかと不安。在日朝鮮人3世の人は、こうした雰囲気だけで私たちは危険にさらされていると発言していました。大変心配していました。

 海外友好都市交流を進め、市内に居住する外国籍の人々との国際交流や多文化共生といった施策とも反する国民保護計画であることは、こうした外国籍の人の発言からも明らかであります。行政は戦争のための計画を策定し、準備をするのではなく、平和憲法の精神を生かして、自治体レベルでの平和施策に力を注ぐべきであります。

 国民保護法を含む有事法制と周辺事態法は、アメリカの世界戦略に沿って、いつでもどこでも戦争に参加できるという法体制でありますし、その法整備であります。これは米軍の横田基地、キャンプ座間の再編強化とあわせて、憲法9条を変えて戦争のできる国になる危険な流れであり、私は改憲には絶対反対です。こうした流れを基本とする国民保護法に基づく本条例改正には反対をして、討論を終わります。