◎【40番井上睦子議員】
議員提出議案第10号、身近な地域で安心して安全に出産ができる環境整備を求める意見書について提案説明を行います。

 本年8月、奈良県で、救急車で搬送されていた妊産婦が受け入れ病院を探すのに1時間半もかかり流産するという痛ましい事態が起きました。産科医や産科病院の不足、すなわち出産の場所の減少が深刻な事態となっています。

 こうした産科医不足の中で、助産所や助産師の役割が見直され、自然出産や夫の立ち会い、母乳育児、産後の訪問指導や育児相談など、満足度の高いケアは次第に多くの人々に支持されてくるようになっています。

 昨年6月に成立をした改正医療法第19条によって、助産所の開設要件が厳しくなりました。改正内容は、今まで嘱託医師を定めておかなければならないという規定であったものが、産科または産婦人科の嘱託医と、新生児医療を含む嘱託する病院または診療所を確保しなければならないとなりました。改正の趣旨は、出産の異常時や緊急時などにおける母と子の安全を確保することであり、助産所と医療機関との連携確保は極めて重要なことであります。しかし、現在の産科医不足や産科病院の廃業などにより助産所が個人で嘱託医師を探すことは現状でも難しく、改正法で強化されれば今まで以上に困難が予想されます。

 八王子市内では2ヵ所の助産院があります。産科医院や病院、そして都立小児病院に嘱託をし、安全確保に努めています。しかし、24時間の搬送体制を持つ病院を確保するということは難しいということでした。現実には、市内の1つの中核病院からはマンパワーの不足を理由に断られたということでした。また、今後においては、都立小児病院の移転問題など、不安が残っております。

 このまま法が施行されるならば、全国的にも産科医が確保されない地域など、助産所の閉鎖や新たな助産所の開設ができなくなるおそれがあります。法は、開業助産師に嘱託医の関与を義務づけていますが、逆に公的病院などが助産所と連携する義務を設けていません。助産師だけの努力で嘱託医を確保することには限界があります。

 法改正時の参議院厚生労働委員会の附帯決議では、安心して出産できる体制の整備を進めるため、助産師の一層の活用を図ること、また母と子の安全のために助産所の連携医療機関が確実に確保されるよう努めることとしているように、国や自治体が責任を持って嘱託医、嘱託医療機関を確保することが求められています。

 助産師の活用は欧米諸国では進んでいます。訴訟の多さなどが原因で産科医不足に悩んでいるのは日本だけでなく先進諸国共通だと言われていますが、イギリスやニュージーランドなどは助産師を育成して対応しています。イギリスでは院内助産院が普通にあり、ニュージーランドでは約8割の出産を助産師が中心となって管理し、助産師が活躍をしています。

 現在、日本では病院や診療所での出産が主流ですが、戦前はほぼ助産師が担っていました。育児経験の少ない若い親がふえる中で、地域の中で安心して出産ができる助産所や出産から育児まで子育て支援や母と子を支える助産師の役割は見直されています。助産師の積極的な活用をしている日赤医療センターの○○産科部長は、8割の分娩は助産師で対応できる、積極活用で産科医の負担を軽減することが現実的な対応と指摘をしています。

 意見書は、産科医不足や産科病院などの不足が解消され、周産期医療のネットワークが全国で完全に実施されるまで改正医療法第19条の弾力的な運用を行うこと、また国や自治体が助産所の嘱託医、嘱託医療機関を確保すること、国に対しては、公的医療機関は、緊急搬送など、妊産婦、新生児の円滑な受け入れ体制ができるよう支援を求めるというものです。さらにまた、質の高い助産師の養成と助産師枠の増加を求めています。

 助産所での出産は、医療措置が少なく、妊婦の満足度が高いことが2000年の旧厚生省の調査でも明らかになっています。地域で安全に出産、そして安心して出産できる助産所などの環境整備のための本意見書に対して、ぜひとも皆様の御賛同をお願いして、提案説明を終わります。