◎【40番井上睦子議員】
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第111号議案、八王子市国民健康保険条例の一部を改正する条例設定について、生活者ネットワーク・社会民主党を代表して討論を行います。
この改正案は、来年1月1日から産科医療補償制度が実施されるため、医療機関が負担することになる1件3万円の保険料について、妊婦が支払う出産費用に上乗せされるため、出産育児一時金を35万円から38万円に引き上げるという内容です。
産科医療補償制度は、この制度に加入する病院、診療所、助産院で生まれた新生児で、通常の妊娠、分娩にもかかわらず、重い脳性麻痺となった場合にのみ、医師の過失がなくても、合計3,000万円、内訳としては一時金が600万円、分割金として20年間に1年間120万円の補償金が支払われるという制度です。
この制度は、脳性麻痺となったこと、その家族に対する経済的な負担の速やかな補償、医療事故の原因分析と防止、訴訟など紛争の防止と早期解決などが目的とされています。しかし、この補償制度は根拠法がないため、国会審議は法案としてはされておりません。厚生労働省が枠組みをつくり、民間損害保険会社と共同で商品を開発したので、国民の合意形成が十分にできているとは言えず、医療関係者や障害当事者から問題点や改善点が指摘されています。
まず、民間損害保険を活用することについての指摘です。病院などの分娩機関は、補償金支払いによる損害を担保するため、財団法人日本医療機能評価機構を通して民間損害保険会社の6社が共同運営する産科医療補償責任保険に加入します。厚生労働省は、補償の支払い対象者を、年間500件から800件としています。1年間の分娩数は約100万件ですから、保険料総額は300億円となります。制度の運営費用は国が別途支出することになるため、補償対象500件の場合は150億円の補償額となり、150億円の余剰金が出ることになります。800件の場合は240億円の補償額となり、60億円の余剰金が生じることになります。社会保障審議会医療保険部会でも複数の委員から、余剰金が生じるのではないかという意見が出されましたが、余剰金が出ても制度に加入している分娩機関に還元することはないとの回答で、これでは実質損保会社の利益になるのではと懸念されています。
また、保険料額や補償対象の範囲などの根拠は明確にはされていません。民間損害保険会社なので、保険料は出産育児一時金という公的な医療保険から支出されるにもかかわらず、財務諸表などの公開など、財務の透明性が担保されていないという問題が指摘されています。
また、補償対象についても問題が指摘されています。補償対象は出生体重2,000グラム以上、かつ在胎週数33週以上で、身体障害者の等級1、2級相当の重症者となっています。ただ、33週未満でも28週以上なら、場合によっては個別の審査で認められることもあり得るとされています。先天性や感染症による重度脳性麻痺は対象にはなりません。補償の対象外になった子どもと家族にとって、同じ障害を持つにもかかわらず、経済的な大きな差が生じることになります。このことについては医師や患者、家族からの反発が多いというふうに新聞で報道されています。
長崎県では、当初、9割以上の分娩機関が加入を見合わせました。牟田郁夫産婦人科医会長崎県支部長は、産科医は障害のある赤ちゃんが生まれれば悲嘆に暮れる親を助けたいと自然に思う。だから、一貫して事故か否かで線引きをしないよう求めてきた。それなのに補償対象が限られた。何のための制度かと思うと発言されています。
また、障害者当事者団体からは、脳性麻痺がある人の生きることの厳しさや脳性麻痺児を育てる家族の負担の大きさは、原因が、先天性か、後天的かによって変わるものではありません。障害があることへの支援は原因によるのではなく、ニーズ、必要に応じて提供されるべきですなど、多くの意見書や要望書が出されています。
他にも産科医療崩壊を食いとめるという目的と、この制度の内容が乖離しているのではないか。障害児の出産にかかわる訴訟が減ることが目的だと言われているが、果たして訴訟は減るのだろうか。むしろ原因をめぐって適用を求めて訴訟が頻発するのではないか。民間損保会社が倒産した場合、公的資金はどうなるのだろうか。医師の過失防止や医療の質の向上につながらないのではないかなどなど、たくさんの問題が、この制度が十分な議論が行われなかったがゆえに、問題点が指摘されています。
制度の実施によって、分娩費の妊婦への負担がふえることになりますので、出産育児一時金を増額する本議案には賛成でありますけれども、産科医療補償制度については、さらに今後、制度開始後、改善、調整、再検討すべき点も多いことを指摘して、討論を終わります。
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