◎【40番井上睦子議員】
それでは、私たち13人の議員が提出した議員提出議案第15号、八王子市政治倫理条例に賛成をし、自民・公明両党が提出した議員提出議案第1号、八王子市政治倫理条例に反対する討論を生活者ネットワーク・社会民主党を代表して行います。

 今回の採決は、この間、八王子市議会で政治倫理について2つの条例案が出され、審議をされてまいりましたが、市民からの信頼を得られる条例なのか、あるいは政治的ポーズだけの条例なのか、その選択が問われている採決だと考えます。

 私たちが昨年9月に提出した条例案は、目的に政治倫理の確立と政治腐敗の防止を明記し、その実効性を担保するために、第1に政治倫理基準、第2に兼業・兼職報告書と資産公開制度、第3に問責制度、第4に政治倫理審査会、第5に市民の調査請求権、第6に請負契約等に関する遵守事項、そして第7として税等納付状況報告書を定めております。  こうした条例の骨格は、ことし1月出された自公案も大変よく似ておりますけれども、兼業・兼職報告書が欠落をし、根幹部分で重大な欠陥があることを指摘してまいりました。自公案の欠陥部分は審議を通じてより一層明らかになり、問題点が浮き彫りとなりました。

 まず、最大の相違点、自公案の欠陥部分である市との請負契約等に関する遵守事項についてです。

 私たちの条例案は、請負辞退の対象となる親族事業者については、公明党からの1親等内の姻族を加える修正提案を受け、「配偶者及び2親等内の血族若しくは1親等内の姻族が役員をする事業者」とし、辞退届の提出を求めています。しかし、自公案は親族事業者を「配偶者若しくは1親等内の親族が役員をする事業者」として範囲を狭めています。いかなる届け出の必要もない自粛規定となっています。

 親族企業の範囲を1親等内の姻族とした理由について、提案者である公明党の市川議員からは、相続権の発生と自公案では親族企業の規定はなくゼロだった。議員の会案は2親等だったので、ゼロと2の間をとって1を入れたとの答弁がされました。しかし、相続権の発生は1親等がいない場合は2親等にも発生します。また、ゼロと2の間をとって1というのも、当初、市川議員自身から2親等と1親等の姻族を私たちの条例に対する修正提案として主張された経過から考えれば、到底納得できる根拠とは言えません。

 地方自治法は第92条の2、142条で兼業・兼職の禁止を、169条で会計管理者について兄弟姉妹までを禁止の対象としていることを根拠に、私たちは2親等と1親等内の姻族と定めました。

 政治倫理条例は、三多摩地域では国分寺市と多摩市で制定されています。親族企業の範囲は、国分寺市は配偶者2親等内または同居の親族、多摩市は配偶者と2親等内の親族として、2親等内の規定が特に厳しいわけではなく、当然の規定だと言えます。

 さて、私たちは黒須市長の親族企業である黒須建設の多額の公共事業の受注について、政治倫理上の大問題だと指摘をしてきました。自公案の親族企業の範囲では、1親等である市長のお母さんと息子さんが黒須建設の役員であるため請負契約の自粛の対象となります。しかし、役員を辞任すれば自粛の対象ではありません。これは答弁の中で明らかになりました。さらに、辞退ではなく自粛とした理由等について、辞退届の義務化は地方自治法、憲法とのぶつかり合いを避けるために外したと小林信夫議員から答弁がありました。しかし、この認識は誤りだと言えます。

 私たちの条例案は辞退とし、その担保のために辞退届を提出することになっていますが、これは憲法や地方自治法に抵触するものではありません。憲法22条は職業選択の自由を、憲法29条は財産権を保障していますが、これは公共の福祉に反しない限りとの制限が付されています。地方自治法92条の2、142条で市長と議員が経営をしている会社についての請負を規定しているのは、職業選択、営業の自由、財産権よりも公共の利益が優先するという考えに基づいたものです。

 さらに、その趣旨は自分の利益になるような形で公的な地位、権限を使えないようにするということであり、家族全体として事業を営んでいる場合なども同様に考えるべきであります。これは「逐条地方自治法」で、実際において、議員がそれら配偶者や子弟の請負について実質的な支配力を及ぼし、全く配偶者や子弟の請負は名目のみで、実質はその議員が請け負っているのと何ら異ならないような場合もあるので、このような事態も請負の丸投げと同じく本条の趣旨から極力避けられねばならないところである。実際の運用において注目されなければならない点と考えるとしているように、地方自治法が定めているものは必要最低限ものであります。したがって、請負契約辞退の範囲を定めるのは私たち議会の判断にゆだねられるべきものです。

 それは、道徳と法律の間を埋める自治体立法である政治倫理条例によって決定できると言えます。制約をかけること自体が憲法の保障した権利を侵害するものと見るのは適切ではありませんが、それでも私たちの条例では憲法の規定に配慮して、親族事業者については辞退するよう努めなければならないと努力義務規定としています。以上のように、憲法、地方自治法とのぶつかり合いはないことを明言いたします。

 さらに、自粛規定について、具体的に何件の募集があって、そのうち何件とったら自粛なんだと、そういうところが果たして数字的に示せるかどうかというのはわかりません。これは非常に難しい。また、自粛では仕事をとってもよいのかという私の質問に対して、仕事をとってもいいと思う。仕事をとる権利もある。それは制限をかけるべきではないと提案者の先ほどの小林信夫議員から答弁がありました。この答弁は、請負辞退の規定は何の拘束力もないこと、実効性もないことを明らかにしたものです。これでは黒須市長の親族企業である黒須建設が1親等の役員を辞任しないまでも、市発注の公共事業に参入することに逆にお墨つきを与えることになります。兄の市長が発注して、弟の企業が受注をするという構図は何ら変わらないのです。

 30点という自公案に対する斎藤文男九州大学名誉教授の厳しい評価は、さきの条例審議のときにも紹介をいたしました。斎藤さんの評価は、条例をつくりましたというだけの免罪符。最大の欠陥は、これでは請負契約の適正化が図れないことです。いや、むしろ請負をめぐる不公正、癒着、腐敗を政治倫理条例という小ぎれいなベールで覆い隠すものと評さざるを得ませんという指摘を小林信夫議員の答弁は裏づけるものであります。

 このように第1号議案、自公案の最大の欠陥は、第5条の親族企業の範囲が狭いこと、辞退ではなく自粛としたことから実効性がないことですが、他にも内容的に緩やかで現状を変えることができないものになっています。具体的には、市の範囲を私たちの案では住宅・都市整備公社や学園都市文化ふれあい財団を含むことを明記していますが、自公案は公社や財団を含みません。審議では、私たちの主張は理解できるとしながらも、このままでいくという答弁に終始いたしました。

 また、実質的に経営にかかわっている事業者の範囲についても狭めています。私たちの案にある「市長又は議員が年額300万円以上の報酬を受領している法人等」、「市長又は議員がその経営方針又は主要な取引に関与している法人等」は除外されています。これはハードルを低くしたという答弁でありました。このハードルを低くしたということは、すなわち市長や議員にとって甘い内容であるということにほかなりません。ほかにも市長や議員の兼業・兼職報告書の規定がなく、透明性が確保されておりません。

 また、自公案は条例づくりのルールにおいても基本的な誤りがあり、条例の整合性がとれておりません。例えば市民の規定であります。これは答弁者から市民参加条例の市民の規定、すなわち「市内に在住在勤又は在学する個人並びに市内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体」とする規定を引用したとの答弁がありました。  さらに、第3条から見ると「市民は、主権者としての責務を」というふうに規定しておりますけれども、事業者は明らかに主権者ではありません。投票権、選挙権を持っておりません。これは法的に明らかな誤りです。市民の規定は、市民全体の奉仕者、市民全体の代表者、市民の調査請求権にも及びますが、事業者を含めるという解釈は整合性を欠いています。例えば市民の調査請求権、だれに調査請求権があるのかということについて、私たちの案では市内の有権者と規定しております。しかし、1号議案の条例では、市内に在住在勤または在学する個人並びに市内に事業所を有するというふうに市民参加条例の定義を置きかえて考えると、例えば市外の高校生が調査権を有するというふうな解釈にもなってまいります。というように、極めて条例づくりにおいて精密さに欠け、整合性に欠けるということを強く指摘したいと思っております。

 昨日の読売新聞は「政治倫理条例、大甘、八王子、自公案あす採決へ」という見出しを出しました。大変恥ずかしい内容だと私はこの報道を見て思いました。法政大学教授の廣瀬教授は、自公案は解決策ではなく、現状を容認し、お墨つきを与えるだけの条例。これでいいというなら、八王子という自治体はそれまでと切り捨てたというふうに報道されております。

 私たちは9月に条例案を提出以来、市民との信頼を八王子市議会が勝ち得るために全力で努力をしてまいりました。条例は市民との約束であります。市長や議員がみずからを正し、市民に信頼されるためのルールを極めて私たちに厳しい形で課して信頼を勝ち取っていくのかということの提案でありました。これが市長や議員に大変甘い、そして信頼を得ることができないという条例案が成立することは、極めて八王子市、そして市民に対して議員の1人として難しい、申しわけないというふうにも思います。

 私は、これが市民に対してきちんと信頼のできる、そして今後に及んでも市民が市政を信頼する、また議会を信頼する条例として第15号の私たちが提案した議案は、立派にその役割を果たすことができるということを表明し、賛成といたします。

 そして、第1号議案は大甘だと評価をされるように、決して実効性のある、そして政治腐敗防止のための条例ではないということを強く申し上げて、反対の討論といたします。